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きいたんとルー きいたんとお魚(串焼き)。

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きいたんとルー きいたんとお魚(串焼き)。



 




昔々、あるところに、
きいたんというたべこさんが住んでいました。
たべこというのはちいさいひとのことです。
ちみことも呼ばれます。
世間一般では赤ちゃんと呼ばれることが多いです。
食べて、寝て、にこにこして、
みんなに大事にしてもらうのがお仕事です。
きいたんもお兄ちゃんやお姉ちゃんにお世話をしてもらい、
マイペースなお父さんと毎日幸せに暮らしていました。

ある日のことです。
いつも通り、お世話係の紅玲お姉ちゃんと、
御留守番をしていたきいたんは、お昼ご飯を食べながらテレビを見ていました。
「きいたん、早く食べちゃいなよ。」
「んー…」
お皿の中身がちっとも減らないので、
注意されるんですけど、きいたんはなかなかお昼を食べ終われません。
だってテレビが気になって、ご飯どころじゃないんです。
でも、あんまりテレビばかり見ていると、
お姉ちゃんが怒って消してしまいますので、なんとか食べなければいけません。
きいたんは、テレビが見たいんですから。

テレビでは、おばちゃんが遠いところに行って、
面白いものや、美味しいものを見つけて遊んでいます。
おばちゃんは、良いものを見つけるたびに一生懸命褒めていますので、
それはとても素晴らしいものなのでしょう。
きいたんは、景色の良さとか、素敵な商店街とかは、
よくわからないのですけれど、
おばちゃんは楽しそうでいいなあと思って、テレビを見ていました。
しばらくすると、おばちゃんはお魚を見つけました。
『わぁ、鮎だって! 香ばしくて良い匂い!』
串に挿して、焼いてあるのだそうです。
きいたんは、そんなお魚は見たことがありませんから、びっくりしました。
お魚は御池で泳いでいるか、お皿に乗って出てくるものじゃないのでしょうか?
「おねえちゃん、おさかな。」
「そうね、こういう観光地では定番だよね。」
きいたんはお姉ちゃんに「凄いね」って言いたかったんですけど、
お姉ちゃんは全然驚いていません。
あのお魚は、大して凄くはないのでしょうか?
きいたんが目をぱちくりさせている間に、
おばちゃんはもっと良いものを見つけたみたいです。
『わぁ、しかも子持ちですって!』

テレビに串に刺したお魚と、
ちょっと大きくておデブのお魚が、並んで移りました。
『これって、今だけしか食べられないんですよね?』
『そうですね。』
『凄い、旬よね!』
旬とは何でしょうか。
やっぱりきいたんにはよく分かりませんが、
おばちゃんが喜んでいるから、きっと良いことなのでしょう。
それに紅玲お姉ちゃんも驚いたように言いました。
「へえ、子持ちだって。そんなのあるんだね。」
「こもちってなんだ?」
きいたんが聞きますと、お姉ちゃんは何でもなさそうに教えてくれました。
「お腹に卵が入ってるのだよ。
 きいたん、ししゃもの焼いたのや、鰈の煮付けで、
 食べたことがあるでしょう?」
それを聞いて、きいたんはニコニコしました。
お姉ちゃんが教えてくれたお魚はどれも美味しかったからです。
おばちゃんも喜んでいますし、
あのお魚もきっと美味しいに違いありません。
きいたんは是非、自分も食べたいと思いました。

「きいたんも、あれ、たべたい。」
きいたんがお願いしますと、紅玲お姉ちゃんはちょっと困ったような顔をしました。
「あれはちょっと難しいなあ。食べに行くには遠いし。
 でも、師匠、きいたんのお父さんなら、
 つれていってくれるかもしれないね。」
どうやら、お姉ちゃんはお魚のところにいけないようです。
けれども、お父さんなら出来るかもしれません。
なにせ、お父さんは偉い魔法使いで、お姉ちゃんの先生でもあるのです。
困ったことがあると、お姉ちゃんたちはお父さんに相談します。
その度にお父さんは文句を言うんですけど、
大概なんとかしてくれるんです。
セールしている卵の買い出しや、重たい飲み物を運ぶのだって、
ちゃんと手伝ってくれます。

そこできいたんもお父さんにお願いすることにしました。
その日の夕方、お父さんがお仕事から帰ってくると、
早速すっ飛んで出迎えて、言いました。
「おとうたん、おとうたん、おさかなたべたい。」
開口一番に騒ぐきいたんに、お父さんは肩を落としました。
「なんだ、お帰りも言わないで。
 魚なら、好きなだけ食べればいいじゃないか。
  姉ちゃんに頼め。」
「おねえちゃん、おとうたんにおねがいしてっていった。
 それに、おねえちゃんじゃだめっていった。」
きいたんは説明しますが、お父さんにはよくわからないようです。
「なんで。」
「わかんない。」
お父さんこそ、何故、そんな難しいことをきいたんに聞くのでしょうか。
お姉ちゃんの都合はきいたんには分かりません。

お父さんは少し考えた後、更に聞きました。
「魚ってなんの魚? そんなに高いのか?」
「わかんない。」
お値段のことをお姉ちゃんは言っていませんでしたが、
あれは高いのでしょうか?
どちらにしても、きいたんには預かり知らぬことです。
お父さんは更に考えた様子で、また聞きました。
「どんな魚?」
「くしにさしてんの。いろりでやいてんの。 」
「ああ、なあ。」
ようやくお父さんもわかったようです。
察しの悪いお父さんです。
その挙げ句、顔をしかめて首を横に振るじゃありませんか。

「やだよ、そんな面倒なもん。
 お前はあれ、好きじゃないって。」
何故、そんなことがわかるんですか。
きいたんは、まだ、食べたこともありませんのに。
それに、おばちゃんはあんなに喜んでいました。
とても素晴らしいものに違いないのです。
お父さんはきいたんを誤魔化そうとしているに違いありません。
きいたんは怒りました。
「たべたい! たべたい!」
「はいはい、後にしろ、後に。」
酷いことに、お父さんはきいたんを無視して、
お部屋に上がると、手を洗いに行きました。
手を洗うのは仕方がありません。
お外から帰ってきたら、うがいと手洗いをしなければいけないからです。
でも、洗面所から戻ってきても、
お父さんは抱っこ一つしてくれず、きいたんをほったらかしで、
椅子に座るじゃありませんか。
きいたんは、お父さんをゆさゆさ揺さぶりました。

「おとうたん、おとうたん! おさかなたべたい!」
「そんなに美味しいもんじゃないって。」
お父さんがいい加減なことを言います。
そんなはず、ありません。
おばちゃんはとても喜んでいました。
それに「しゅん」という、良いものだと言ってました。
きいたんは、どうにかしてあのお魚が美味しいもので、
是非とも食べたいのだということを、
お父さんに分かってほしいと思いました。

「でも、たべたい! たべたい!」
「何で焼き魚なんかで、そんなに騒いでるんだ。」
お父さんをゆさゆさ揺さぶりますと、不思議そうに言われました。
もしかしたら、お父さんにはあのお魚が特別だって分かっていないのかもしれません。
きいたんは、一生懸命説明しました。
「たまごはいってんの。いまだけなの。」
「卵って何? うずらの卵でも一緒に焼いてるのか?」
「こもちなの。」
「ああ、なあ。」
お父さんは、足元で騒ぐきいたんを抱っこして、
紅玲お姉ちゃんを見ました。
「どうして、こうなった?」
「今日、テレビでやってたのを見たんですよ。」
「なるほど。」
お姉ちゃんは流石でした。
お父さんを一言で納得させたのです。

状況を把握したお父さんは、頭をバリバリ掻いて、
詳しい話をお姉ちゃんから聞き始めました。
「それで場所は?」
「さあ? そこまで一生懸命見てませんでしたからね。
 多分、ベルンの何処かじゃないかと思いますけど…
 新聞のテレビ欄で番組詳細探せば乗ってるんじゃないですか?
 明日、仕事の都合が付くなら、連れて行ってあげてくださいよ。」
天気も良さそうだしと、お姉ちゃんが勧めてくれますが、
お父さんは良い顔をしません。
「ベルンかー あの辺は何処も田舎だけど、
 確かに観光地化しているところはしてるからなー
 でも、やだ。普通に面倒い。」
何処までも勝手なお父さんですが、
紅玲お姉ちゃんは有能でした。
お父さんが渋っていることなど気にせず、ガンガン攻めます。
「また、そんなこと言って! 
 良いじゃないですか、たまにはきいたんと一緒に遊びに行ってくれば!
 普段、仕事だなんだって、ほったらかしなんだから!」
「そうは言うけど、休みの日に人混みとか行きたくない。」
「じゃあ、自分で用意すればいいんじゃないですか?
 魚の一匹や二匹、どうとでも調達できるでしょう。
 何だったら、実家に帰ればいいじゃないですか。
 川が併設されてるんだから、川魚だって釣れるでしょ。」
「あの川は夏場のプール代わりであって、
 確かに冬場なら生簀代わりにも使ってるけど、この時期には何も入ってない。
 それに実家で串焼きとか始めたら、全員分用意しなくちゃいけないとか、
 余計な騒ぎになるから嫌だ。」
「じゃあ、知り合いの伝手、当たればいいじゃないですか。
 フロティアでもどこでも、その辺に居るでしょ、
 そう言うの詳しそうなモフモフしたお友達が。」
「なんすか、嫌味ですか。
 去年、養子使ってあれこれやったのを、まだ根に持ってますか。
 まあ、その辺に声かけてもいいけど、
 やっぱり無駄に大騒ぎになる気がするな…やるんだったら、
 実家の奴らにはバレないように、庭の近辺でやったほうがまだマシかね?」
「じゃあ、それで。はい、決まり。良かったねえ、きいたん。」
やっぱり紅玲お姉ちゃんは有能でした。
勝手に決められたお父さんが物凄く顔をしかめていますけれど、
兎に角、きいたんは特別なお魚を食べに行けることになったのです。
お父さんとお出かけが大好きなきいたんはニコニコご機嫌でした。

次の日、お仕事に出かけていくお兄ちゃんたちに混じって、
きいたんもお出かけの準備をしました。
「きいたん、魚釣りに行くんだって? いいなあ。」
「沢山釣れると良いね。」
「お土産期待してます。」
「自分で釣れよ。」
「これだから、ジョカさんは。」
いつも通り、わいわい騒ぎながら出かけていくお兄ちゃん達に、
きいたんはニコニコしながら行ってらっしゃいのバイバイをしました。
お兄ちゃん達が全員出かけたら、お帽子を被り、
お鞄におやつと水筒を詰めてもらって、きいたんも出発です。

「師匠と一緒だから、滅多なことはないと思うけど、
 川の近くは危ないからね、気をつけるんだよ。」
ちょっと心配そうな紅玲お姉ちゃんに行ってきますのバイバイをして、
きいたんとお父さんは、早速川に向かいます。
普通だったら、乗り物に乗ったり、森を歩いたりするものですが、
なにせ、きいたんのお父さんは移動魔法が得意でしたので、
家を出た途端、そこは川でした。
旅行の醍醐味なんて、きいたんもお父さんも興味がございません。
大事なのはお魚を釣って、食べることだからです。

ザブザブ流れる川と丸い石ばかりの河原を眺め、
きいたんはむふーと満足げに鼻息を吹きました。
ここはテレビで見た河原にそっくりです。
きっと、おばちゃんが食べていたお魚が釣れるに違いありません。
それに川は朝日にキラキラ光って、とても綺麗でした。
早速きいたんはお水で遊ぼうと思い、トコトコ川に近づきました。
そのまま突っ込んでいこうとするきいたんに、お父さんは大慌て。
「おい、靴濡れちゃうぞ。」
一体、何を言っているのでしょうか。
川に来たら、水遊びをするに決まっています。
不満げなきいたんに、お父さんは大体のことを理解して、
ブツブツ文句を言いながら、きいたんの靴と靴下を脱がせました。
「全く、魚釣りに来たんじゃないのか?」
ズボンも捲って貰ったら、
きいたんは早速、浅瀬に足を突っ込んでびっくりしました。
川の水がとても冷たかったからです。
驚いたきいたんはそのまま固まってしまいました。
それに、川底は石がゴツゴツして、足の裏が痛いじゃありませんか。
これでは歩けそうにありません。

「おとうたん、つべたい。」
「そりゃ、そうだろ。」
「あんよいたい。」
「それは知らん。」
全く、役に立たないお父さんです。
きいたんは困って、そのまま立ち尽くしてしまいました。
「おとうたん、あんよつべたい。これじゃあ、あるけない。」
「文句の多いやつだな。ったくもー」
自分を棚上げして、お父さんはブツブツ言いながら、
なにか良いものがないか、カバンを探しました。
するとカバンにはちゃんと、タオルとサンダルが入っていました。
お姉ちゃんが準備しておいてくれたのです。
紅玲お姉ちゃんはやっぱり有能でした。

サンダルを履かせてもらい、
転ばないようにお父さんと手を繋いで川の中を歩いたり、
拾った枝を流したり、ダムを作って、きいたんは遊びました。
特にダムを作るのは大変面白いことでした。
お父さんと一緒に石を積み上げて水をせき止め、
大きなダムを作ったところで、きいたんは満足して、
お父さんがちっともお魚を用意してくれていないことに気が付きました。
「おとうたん、おさかな。」
「お前が遊んでるの放ったらかして、魚は釣れないの。
 今、準備するから待ってなさい。」
お父さんはようやく竿を取り出し、魚釣りの準備を始めました。
針がたくさんついている割に、餌がありません。

「おとうたん、えさは?」
「これはころがし釣りって言って、餌いらないの。」
そんなはず、ありません。
餌無しでどうしてお魚が食いつくでしょうか。
きいたんは呆れてむふーと鼻息を荒くしました。
しばらく見ていると、お父さんは何度も針を投げたり、戻したりしていますが、
やっぱりお魚は釣れません。
きいたんは、すぐに飽きてしまいました。
「おとうたん、つれなあい。」
「釣りってそうそう直ぐに釣れるもんじゃないだろ。」
「つまんない。」
「釣りってそういうものだろ。」
「まだ、つれなあい。」
「初めて30分と経ってねえよ。」
「おとうたん、へたくそ。」
「うるさいよ、お前!」
餌もつけずに魚を釣ろうなど、変なことをしているくせに、
お父さんはきいたんを怒ります。
ところが、すぐに顔色を変えました。
「…ん? よし、かかった!」

お父さんが竿を上げると、
見事、一匹のお魚が引っかかっているじゃありませんか。
「よしっ、釣れた釣れた!」
お父さんは魚を貼りから外すと、きいたんが作ったダムに放り込みました。
お魚はたいそう困った様子でダムの中をぐるぐる泳ぎます。
きいたんは、泳ぐお魚を見るのが好きでしたから、
ニコニコしながらダムの中のお魚を眺めました。
「えさもないのに、つられちゃって、おばかちんだねえ。」
「食いつかせるんじゃなくて、引っ掛けるやり方だから、
 そういうもんでもないの。」
ププッと笑ったきいたんに、よくわからない説明をして、
お父さんはまた竿を投げ始めました。
もっとたくさん、釣るつもりに違いありません。

餌無しの針でも、お魚が釣れるとわかったきいたんは、
自分もやりたくなりました。
お父さんに釣れるのであれば、きいたんにだってできるに違いありません。
「おとうたん、きいたんもやりたい。」
「お前は、まだ竿も持てないだろ。」
にべもなく断られ、きいたんは怒りました。
試しもしないで、駄目とは失礼なお父さんです。
「できる! できる!」
「んなわけ、ねえだろ! 竿の長さと、自分の体の大きさを考えろ!」
確かにお父さんが言うとおり、竿はたいそう長くて、
きいたんよりずっと大きいのですが、持って持てないことはないはずです。
「できる! できる!」
「できません! お前に釣りはまだ早い!」
なぜ、お父さんはそんないい加減なことを言うんでしょうか。
きいたんにだって、釣りぐらいできます。
以前、やったことだってあるんです。

「できた! できた! きんぎょ、つった!」
「あれは釣り堀屋の餌貰ってない金魚で、
 針いれば釣れる、入れ食い状態だったじゃねえか。
 これは引っ掛けなきゃいけないから難しいの。
 それにあのときの竿は20cmの小さいやつだし、
 お前は竿持っただけで、餌つけたり、
 針から外したりするのとかは、全部お父さんの仕事だっただろ。」
ちょっと手伝ってもらったからって、
そんな頭ごなしに否定しなくったって、いいじゃありませんか。
それに、きいたんは金魚以外だってちゃんと釣っています。

「できた! できた! ざりがにもつった!」
ちゃんと出来ることをきいたんは主張しますが、
お父さんは見向きもしません。
「あー わざわざ遊園地で釣ったな。
 なんであの遊園地、アトラクションに人員割かないで釣り堀やってるんだろ。
 ザリガニはそれこそ、餌ぶら下げれば釣れるの。」
なんて言い草でしょうか。
確かに、あのザリガニ用の竿にはスルメがぶら下がっていただけで、
針もついていませんでしたが、そんな言い方って、ないじゃありませんか。
それにまだ、きいたんには切り札があります。

「きいたんにもできる! いるかさんだってとれた!」
「あー あの、縁日のスーパーボール掬いな。
 ポイ握りしめて離さないから、どうしようかと思ったが、
 ちゃんと取れたなー あの時はお父さんもびっくりした。
 縁日のおじちゃんもびっくりしてた。
 でも、あれはポイだから。竿じゃないから。駄目だ。」
なぜ、駄目なんでしょうか。
縁日のおじちゃんだって、きいたんを褒めてくれて、
ゴムのイルカさんをもう一匹くれましたのに。
絶対、お父さんは面倒がって、適当なことを言っているの違いありません。
きいたんはカンカンになって怒りました。
「やりたぁい! きいたんも、やりたぁい!」
お父さんも、大人気なく怒ります。
「あーもー 煩いな! そんなに言うなら、お前はこれでもやってろ!」

そう言って、お父さんはカバンからおもちゃの釣り堀を取り出しました。
台にお魚をセットして、スイッチを入れると軽快な音楽に合わせて、
お魚たちがパクパク口を動かし始めました。
お父さんからおもちゃの竿を貰い、
きいたんは早速、お魚を釣り始めました。
あまり上手にお魚の口に針が入れられなかったので、
竿ではなく糸の部分を持ってお魚を釣ろうとし、
それはズルだとお父さんに叱られました。
全く、おもちゃの準備までしてくれるとは、
紅玲お姉ちゃんは本当に有能でした。

ピーロリロ ピロリー ピロリー ピロリー 
ピーロリロ ピロリー ピローピロー

『ロンドン橋落ちた』の曲にあわせて、
玩具のお魚が口をパクパク動かします。
きいたんは3匹ほどお魚を釣り上げましたが、
そこで飽きてしまいました。
本物のお魚は、まだ釣れません。
一体、いつ、たべられるのでしょうか?
「おとうたん、あきちゃった。」
「そうか。お父さんも色々限界だ。」
きいたんがご不満を申し上げますと、
お父さんも眉間にシワを寄せて頷きました。

「大体こんな騒いで魚が釣れるはずがねえ。
 もういい。行け、グレイプ!」
お父さんが左腕をブンと振りますと、
しゅるりと銀色の紐が袖口から現れました。
魔法使いのお父さんは魔法の紐を持っているのです。
お父さんの袖から伸びた銀の紐は、
蛇のようにくねりながらどんどん伸びていき、
川を50mほど登ったところで音もなく沈んでしまいました。
きいたんとお父さんが黙ってその様子を見ていると、
魔法の紐は暫くして、お父さんの腕をクイクイ引っ張りました。
お父さんが合図に合わせ、紐を力一杯引っ張りますと、
何匹も紐に縛られたお魚が釣れたじゃありませんか。
「つれた! つれた! おさかな、つれた!」
「…初めから、こうすりゃよかった。 」
きいたんは大喜びですが、お父さんは複雑そうな顔をしました。
どうせ、魔法の紐のことを忘れていたに違いありません。
お父さんは偉い魔法使いですが、適当ですから。

それでも気を取り直してダムにお魚を入れると、
お父さんは川の小石を使ってかまどを作り、
持ってきた小枝などを使って火を起こしました。
焚き火の準備ができたら次はお魚です。
「おさかな、かわいそう。」
「仕様がないな、こればっかりは。」
お父さんは手際よくお魚を串に挿して、
塩を振り、焚き火で焼きました。
しばらくすると、小枝が燃えるぱちぱちという音に、
魚の油がたてる音がじゅうじゅうと加わり、良い匂いが辺りに広がりました。
香ばしい香りにきいたんはフガフガと鼻を動かして、ニコニコしました。
「いいにおいだねえ、おいしそうだねえ。」
テレビのおばちゃんが喜んでいたのも、
きっと同じ、良い匂いがしたからに違いありません。

「よし、そろそろ良いだろう。」
お父さんは、焼き上がったお魚を一匹とって、味見をしました。
ちゃんと焼けていることがわかると、
きいたんにも同じように串ごとお魚をとってくれました。
「熱いから、気をつけろよ。」
きいたんは差し出された串を受け取ろうと思いましたが、
熱くて触れません。

「あちくて、たべらんない。」
「ふうふうすればいいだろ。」
お父さんは文句を言いながらも、
お魚をうちわで仰いで冷ましてくれました。
けれども、お魚には背びれや皮がついています。
きいたんは、こんな大きなまるごとのお魚を、
かじったことがありません。

「かわ、ついてる。」
「皮ごと食わなくてどうするんだ。」
お父さんは、それでも背びれをとってくれ、
一口分、皮を剥がしてくれました。
皮のないところをきいたんは齧ってみたんですけど、
思ったより、味がしません。
そればかりか、骨があるじゃありませんか。

「ほねほね、はいってる。」
「そりゃ、あるだろ。」
「ほねほね、とって!」
どうして、お父さんは骨をとってくれないんでしょうか。
お姉ちゃんなら、とってくれます。
けれども、お父さんは首を横に振るのです。
「無茶を言うな。」
仕方がありません。
ここにはお皿もなければお箸もないのです。
串に刺したお魚は、そのまま齧るものなのです。
けれども、きいたんは骨のついたお魚を食べるのは絶対に嫌でした。
口の中がチクチクするなんて、とんでもありません。

「ほねほねあったら、たべらんない!」
「本当に、何しに来たんだ、お前は!」
お父さんはカンカンでしたが、
きいたんだって、譲れません。
きいたんはおばちゃんと同じお魚を、
食べるのを楽しみにしていたのです。
けれども骨の入ったお魚なんて、
美味しくても、美味しくなくなってしまうのです。
「ほねほね、とって! とって!」
折角のお魚が食べられないなんて!
そんなのってありません。
半べそをかいたきいたんに、
お父さんは顔中をクシャクシャにして、何かを堪えました。
そして、大きなため息を一つつくと、
きいたんに少し待っているように伝え、
魔法で一瞬のうちに何処かへ行き、
瞬きする間に新しいカバンを持って、
帰ってきました。

お父さんはカバンからはんぺんや魚肉ソーセージを取り出すと、
無言で串に刺し、焚き火で炙ってきいたんに差し出しました。
「お前はもう、これを喰ってろ。」
焚き火でこんがり焼けたのを、ふうふう吹いて、
冷まして食べてみますと、その美味しいこと。
きいたんは、大喜びです。
「おいちいねえ! おいちいねえ!」
「そりゃ、良かった。」
お父さんは醤油を塗ったトウモロコシや、
ちくわなんかも持ってきてくれ、
きいたんは色々なものを炙って食べて、ごきげんでした。
その横で、お父さんは釣ったお魚を食べていましたが、
ふと、気がついたように言いました。

「あ、こいつ、卵入ってる。」
子持ちのお魚です。きいたんは飛び上がって叫びました。
「たべたい! たべたい!」
そもそも、きいたんは子持ちのお魚を食べに来たのです。
子持ちの鮎は旬で、今しか食べられないのです。

「きいたんも! きいたんも、たべたい!」
「わかった、わかった。」
大騒ぎのきいたんに、お父さんはお魚を渡してくれました。
早速、お魚のお腹にかぶりついて、きいたんは驚きました。
なんて美味しいのでしょうか。
小さいプチプチの卵がたくさん入っています。
きいたんは大喜びで卵の部分だけを皆、食べてしまいました。
「もう、いい。ごちちょうちゃま。」
「ははは、こやつめ。」
美味しいお魚の卵を食べ、大満足のきいたんと違って、
食べ残しを押し付けられたお父さんは、
なにか苦いものでも食べたような顔をしていました。
一体、何が気に入らないのでしょうか。
おかしなお父さんです。

川や玩具で遊び、ソーセージやお魚をたくさん食べて、
お腹が一杯になったきいたんは、眠くなってきました。
うっつらうっつら、きいたんが船を漕ぎ始めた横で、
お父さんは持ってきたものを片付け、
焚き火に水をかけて後始末を済ませます。
「さて、帰るか。」
お父さんがきいたんを抱っこしたときには、
きいたんはほとんど夢の中。
抱っこされたことにも気が付きませんでした。

おばちゃんが言っていたとおり、
子持ちの鮎はとても美味しいものでした。
お父さんはちゃんと、きいたんにお魚を食べさせてくれました。
お父さんは、やっぱり凄いときいたんは思いました。
お父さんに抱っこされて、
ゆらゆら運ばれながら、きいたんはとっても幸せでした。
きいたんは、お父さんが大好きでした。

来たときと同じように、お父さんはさっさとお家に帰り、
紅玲お姉ちゃんが出迎えてくれ、きいたんはお布団に入れてもらいました。
「師匠、きいたんの口の周りがすすで真っ黒ですよ?」
「拭いといてー」
お父さんと、お姉ちゃんがまた適当な話をしています。
お兄ちゃんたちも、そのうち帰ってくるでしょう。
そんなわけできいたんは、今日もとっても幸せに暮らしましたとさ。

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